モザイク
まるで霧の中のように
救急隊員は目を疑った。
「まさか・・・。そんな・・・。」
しかし、どんなに目をこすっても変わらない。ベビーカーにいる子供服はモザイクだ。
「お、お母さんですか?」
この隊員はさっき運転手を病院に運んだばかりだ。その時もどう対応していいか、まるでわからなかった。それが今度は子供だ。さらに用心深く接せねばならない。
「はい、そうです。」
「ここにいるのは・・・お子さんですか?」
確認しなければ、これが子供だと思う自信がなかった。
「私の子供です。それが・・・こんな風になってしまって・・・。」
「わかりました。お子さんなんですね。歩けますか?歩けるなら一緒に来て下さい。歩けないようなら担架を用意します。」
救急隊員は子供を抱き上げた。ただ、体がどうなっているのか皆目見当がつかない。おおよその体をイメージしたが、それも合っているのか微妙だ。その証拠におそらく顔と思われる部分が、あらぬ方向に曲がり、隊員の手に触れていた。
「大丈夫です。歩けます。」
「わかりました。じゃあ、ついて来て下さい。」
三人は救急車へと向かった。

カナには別の隊員が声をかけてきた。
「大丈夫ですか?」
「ちょっと、足をくじいたみたいです。」
「そうですか、じゃ、今、担架を用意させます。じっとしていて下さいね。」
カナにそう言った後、ベビーカーの方にいた隊員に声をかけた。
「こっちは担架が必要だ。先に行ってていいぞ。」
「わかった。」
カナはそのやりとりを見ていた。
<大丈夫かな・・・あの子・・・。>

「なっ。」
隊員の抱えているモザイクを見て、別の隊員が言った。
「何も言うな。俺たちは俺たちなりの仕事をするだけだ。」
「そうだが・・・。いったい、何が起きているのか・・・。そう思わずにはいられなかっただけさ。」
「同感だ。」
それから振り返り、子供の母親に大きな声で言った。
「さぁ、乗って下さい。」
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