モザイク
侵蝕されていく肉体
「長沢いる?」
佐々木は聞いた。
「いるよ。」
長沢は返事した。
お互いに、お互いを見る事はない。前を向いたままだ。
「丹沢さん、だっけ?遅いな・・・。」
「そうだね。どれくらい時間経ったのかな?」
「一時間くらい?」
「じゃ、結構経つね。いつ、戻ってくるんだろ?」
今まで同じクラスであっても、ふたりはほとんど会話していない。だから、いつまでもぎこちない距離感の会話が続いた。
「俺たち、治るのかな・・・。」
佐々木の言葉に、長沢は答えない。
「な、長沢?」
「・・・に・・・。」
「どうかしたのか?」
「・・・よ・・・。」
か細い声だ。何を言っているのか、佐々木にはわからなかった。
「泣いているのか?」
また答えない。それは図星だからだ。
「おい、泣くなよ。」
佐々木は男だ。さっきは教室で取り乱したりしたが、今ここにいるのはふたりだけだ。自分が泣いたら、長沢はどうかなってしまう気がした。だから、グッと堪えた。
「・・・と。」
やはり声にはならない。そんな長沢の手を握ろうと、佐々木は右手を伸ばした。
「?」
何かにぶつかった。ガラスのような固い物だ。
その時、丹沢の声が聞こえてきた。

「すまない。待たせたな。」
声の方をふたりはぎこちなく見た。
「丹沢さん?」
「あぁ、そうだ。丹沢だ。」
目が見えないふたりを気遣い、大きな声で名乗った。
「これから診察をする。医者が足りないらしいから、俺が、ひとりずつ診察する事になった。」
「わかりました。」
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