モザイク
「これで大丈夫でしょう。」
医者は言った。
「ありがとうございます。」
カナは言った。

きちんと手当を受けると、少し痛みは残るものの歩けないわけではない。足を引きずるようにしながら、カナは診察室を後にした。
<さすがにこの足で家に帰るのは無理かな・・・?>
待合室のソファに腰掛け、そんな風に考えた。ただ、こんな時カナはわりと冷静だ。

子供の頃、カナは病気がちな子供だった。熱が出たり、お腹が痛くなったり、朝礼の時に貧血で倒れた事もあった。
そんな時、必ず父親が迎えに来てくれた。普通の家庭なら考えられない。しかし、カナの家ではそれが普通だった。なぜなら、カナの家は神社を営んでいる。祭事があって、どうにも自由が利かない時もあるが、ある程度は自由に都合つけられる。そんな理由からだ。
今日もいつものように父親に電話をかけた。
「お父さん?ちょっと迎えに来て欲しいんだけど・・・。」
まだ娘は学校にいる時間帯だ。また、体調が悪くなったのかと父親は心配した。
「カナ、大丈夫かい?これから学校に行くとなると、少し時間がかかるかも知れないが耐えられるかい?」
テレビで脱線の事は知っていた。そのせいもあって道はかなり混んでいる。だから先に断っておいた。
「あ、今、学校にいないの。市民病院にいるの。」
病院と聞き、父親の声は震えた。
「し、市民病院って、いったい・・・ど、どうしたんだい?大丈夫・・・なのかい?」
「うん、ちょっとね。足くじいたみたい。だから、迎えに来て欲しいんだ。」
「そうか。わかった。じゃ、これからお父さんが行くから待ってるんだよ。」
少しだけ声が安心したようだった。

「カナ。」
父親はすぐに現れた。それもそのはずだ。カナの家である神社とこの市民病院は、車で五分、歩いても十分足らずだ。そして大切な娘の事となれば、その時間はいっそう短縮される。少し息が上がった様子も、それを示していた。
「あ、お父さん。」
カナは立ち上がった。が、それは足をくじいている事を忘れている立ち上がり方だった。勢いがありすぎる。バランスを崩し倒れそうになった。
「危ない。」
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