モザイク
切なる願い
長沢の指は小さい四角が重なっていた。つまり、指はモザイクと化していた。ガラス細工のように固く、そのせいで丹沢は指を切ってしまっていたのだ。
<これは・・・さっきの患者と同じ・・・。範囲は狭いが、まったく同じだ・・・。つまり、この病気は目から発症するのか?そして、モザイクに触れてしまった俺は・・・。>
まず恐怖が襲った。体が小刻みに震えた。しかし、そうしていたからと言って、どうにかなるものでもない。深く息を吸い込み、丹沢は気持ちを落ち着けた。
「すぅ・・・。はぁ・・・。」
「どうかしましたか?」
突然、深く息を吸い込んだ丹沢に、長沢は何かを感じ聞いた。
「あ、いや・・・なんでもない。」
そう答えた。
ただ、長沢のモザイクに触れてしまった今、丹沢に残された時間はわずかだ。長沢を治す前に、この世界はモザイクに沈んでいくだろう。
「すまない。このまま待っていてくれ。」
丹沢はそのまま席を立った。

「神宮寺。」
さっきの病室に神宮寺はいた。丹沢は慎重に近づいた。触れられでもしたら、神宮寺までモザイクに感染するからだ。気休めにしかならないが、マスクもしておいた。
「丹沢、どうした?なんだ、その格好?」
「あ、俺に触るなよ。」
「ん?お前、まさか・・・。」
すぐに神宮寺は察した。
「あぁ、そのまさかさ。ここに連れてきた生徒もモザイクに感染してたみたいだ。そして、俺は触ってしまった・・・。」
「お、おいっ。」
「なってしまったものは、しょうがないさ。それよりわかった事がある。」
「なんだ?」
「体がモザイクになっていく前に・・・。」
一呼吸おいた。
「世界がモザイクに見えるらしい。」
「世界が?モザイク?」
「あぁ、簡単に言えば黒目がモザイクのはじまりって事さ。モザイク状になった角膜を通して見える世界は、まんまモザイクって事だ。」
「なるほど・・・。」
丹沢はあらたまった。
「神宮寺。頼みがある。お前、お前なら出来ると思って頼む。」
< 33 / 97 >

この作品をシェア

pagetop