モザイク
自分の瞳すら疑わしい
逃げると言っても、どこに逃げたらいいのだろう。カナの父親は見当もつかなかった。だから、結局、自宅に戻ってきただけだった。
「お父さん、これからどうする?」
カナは聞いた。
「どうするって・・・。なぁ、カナ。勢いで逃げては来たが、あれは本当に見えたのかな?ほら、周りを見てごらん。」
周りには大きな木々が、青々と葉を輝かせていた。さっきの景色に現実感がないのも納得できた。
「見えたよ。だって、私だけじゃなくて・・・お父さんも見えたでしょ。もし、あれが幻ならふたりに見えるはずがないでしょ?」
「確かにそうなんだが・・・。」
カナに言われても、父親はなおも納得できない風だった。
「もう・・・。」
カナは口を尖らせた。

結局、カナと父親の意見は平行線のままだった。
「とりあえずテレビ、テレビを見てみよう。ただ事でなければ、何かやっているだろう・・・。」
「わかった。」
庭先でいくら話していても埒があかない。カナはその意見に乗った。

「チロル、おいで。」
家に入るなり愛犬のチロルを呼んだ。チロルも、カナの声を聞くなり駆け寄って来た。チロルはパグだ。カナの元に駆け寄って来ただけで疲れてしまい、ハアハアとカナの腕の中で息を荒くしていた。
そんなチロルを抱え、カナはテレビのスイッチを入れた。

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