モザイク
終点
目の前は真っ赤だった。
「な、なんだ・・・。」
大江の見た世界は赤一色だった。モザイクの次は赤。いったいなんと言う日だろう。そして異常に体がけだるい。手の先辺りだけが妙に冷たかった。

バスは走る。
ダムに沿うように、道は曲がりくねっている。それに合わせ、右に左にと車体を揺らすはずだった。

完全に視界は奪われた。ダム湖の湖面が光っているのを見たのが、運転手の見た最後の景色だった。
「あれ・・・?」
湖面の光が、四角いモザイクとなり激しく点滅していた。それが目にうるさかった。だから、サンバイザーを下げようとした。しかし、世界はモザイクに変わっていた。わかるはずなどなかった。
「な、なんだ・・・。これはいったいなんなんだ?」
運転手が騒ぎだし、後ろの席に座っていた大江が聞いた。
「おい、どうした?」
「な、な、なんだ、これ?何もかもがモザイクだぁ。」
パニックを起こしている。
「モザイク?まさか?」
大江の背筋に冷たいものが走った。
「おい、しっかりしろ。」
そうは言っても、大江の声は届かない。運転手は、ただ喚いていた。
「落ち着け。とりあえず車を停めろ。」
遅かった。バスは光る湖面に向けて落ちていった。

「くそう。」
開けていた窓から大江は放り出されていた。手の先の冷たさ湖の水だ。
いつまでもここにいてもしかたがない。重い体を無理矢理起こした。世界を赤くしているのは、自分の血だろう。湖の水で顔を洗った。
すると徐々に赤が薄くなってきた。
「ふぅ・・・。」
息を吐いた。ゆっくりと瞼を開いた。水滴が何滴か残っていたせいもあって、視界が輝いて見える。ただ、それは水滴だけのせいではなかった。

「う、う、うわあああああああああああ。」
大江の叫びがこだました。
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