愛乗りシンドバッド


――シュワッシュワッ
シュワッシュワッ

リリリリリ

ほどよく聞こえてくる
虫の声。

中庭を走ってきた時よりも
小さな音。

「……あのぉ、ハル?
……なんかあったのか?」

目の前にいるのに
薄ぼんやりとしか見えない。
だけれど
くっついているおかげで
妙に立体的な存在感がある。

「……ん?別に」

……いや、別にじゃないだろ。

本殿から離れた塔。
塔の周りには
黒松や桜ばかりで
ここら一帯は
きっと俺とハル2人だけだ。

……あれ。そうだ。
まずいではないか。

蒸し暑い夏の夜の
触れあった汗ばむ肌に
たおやかな風を感じる。

……これはやばい。
よからぬ思いが。

外の草むらの匂いも
わずかに鼻をついた。

……この前は嫌だったのに。

いや、それとも……。

俺はなんとなく
こうなるんじゃないかって
見越して、
ここまで走って来たのか?
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