0-WORLD
「それは、記憶を発症するという事か」

「発症?」

少女は顔を歪ませ高らかに笑った。不快だった。明らかに馬鹿にしている。何故こんな訳の解らない夢に放り込まれて、明らかに自分より年下のガキに嘲笑われなければならないのか。しかし、女の嘲笑は記憶という事実を認めることとなっている。この女は、記憶を知っている。


「発症だなんて、馬鹿げてるな。キミタチニンゲンが、まさか此処を忘れたまま世界を生きれるとでも思っているのかい?」

「訳の解らないことをいっているんじゃない。ただの夢に何で俺がたじろぐような真似を見せなきゃならないんだ」

「なぁ」


少女は近付けていた顔を戻し、大木に寄りかかって俺をまた見下げるように見る。なぁ、だから、何なんだ。何なんだこの夢は。何なんだこの夢の正体は。まさか俺が狂ってしまっただなんて、俺はいつもの街の路地裏で酒を煽って、ただ眠りについただけなのに。それだけなのに。

俺が俯いていると、裸足が視界に入った。
裸足はくしゃりと雑草を踏んでいた。合間合間に生える青く、小さな花。目眩。こんな美しいものに、俺は触れたことがない。触れられることがない、あんな、暗闇の世界じゃ、路上の花も蒼白いネオンに照らされるしかないのだから。

この世界は眩しすぎる。
地球を思い出すと言い張る奴等が、狂ってしまったのも解る。

あいつらは囚われてしまったのだ。
美しさに、この世界の光に。だから、あいつらは狂ってしまった。暗闇のあの街に戻って来れなくなった。

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