0-WORLD

路地裏の喧騒

頭に鈍器で殴られたような衝撃が走った。
いや、殴られたのだろう。鈍器というよりは空き瓶だが。

チリチリとした痛み。
残像のように硝子が割れて、地に落ちる音が響く。は、人気者は大変だな。ただ家なしらしく街の路地裏で心地よく眠っているだけっていうのに、喧騒は何処までも俺を逃がしはしない。マルクトの王者、ゼロという俺を。


「まだ寝てるぜ、頭かち割っても起きねえんじゃねえか?それとも王者の余裕かね」


投げ掛けられた言葉に頭の中で返事をする。
余裕か、そんなものがあるならコロシアムで闘ったりはしない、余裕、そんなものがあるなら俺は顔のない人間として生きる。要するに自信がないのだ、情けなくも自分に。


生暖かいものが頬を伝った。
それは涙なんて生易しいものではない。血だ。
この臭いに慣れすぎている俺は、果たして人間と呼ばれるものだろうか。いや、違う。血の臭いに安らぎを感じるなんて、狂ってる。それを異端だと思う心が、俺をまだ人間にさせているのかもしれない。


「おい、こら」男は俺の頭を足で小突いた。ゆらりと、俺は目を開ける。頭から垂れた血が、目に滲んで思わず手をあてた。「なんだよ、起きてるじゃねえかよ。無視か?無視。いい度胸じゃねえか、こちとらティファレトからわざわざこんな糞みてえな街にやって来たってのによ」男は俺の胸ぐらを掴んでニヤリと笑った。汚い、悪臭がする。
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