文系男子。

ひぼんじんとなまえ



[隥本]

「いらっしゃあい」

「…相変わらずやる気のかけらもねえな、アンタ」

「やる気はあるよー」

唐突だが、奇人変人は存在する。
例えば俺の目の前にいるーー久留米月白(クルメゲッパク)と言う男が良い例だ。
日に焼けた肌に藍色の着流しを来て、室内なのに夏だからかツバの広い麦藁帽子を深く被って、鼻から上が見えない。
膝には、ロビンソンモリドラゴンのロワを抱えている。
麦藁帽子を取ったら取ったで、耳は穴だらけだ。
今日はデカい羽のピアスと何の骨か牙か分からないピアスをつけており、首にはロザリオから数珠、ドッグタグまでじゃらじゃらとかかっている。

こいつ1人を説明するのに何行あっても足りないのでここら辺で切りあげておく。

「…で、何の用」

「先週頼んだやつ」

言えば、ああ、と頷いて一端奥へ引っ込む。

久留米の店を何屋かと聞かれると、困る。
久留米本人は夢屋さんだと言って譲らないが、骨董品やら輸入品、怪しげな呪術に使いそうなブツまで、何でもある。
それと、久留米はアクセサリーを作ったりもしている…確か。

「…どうぞ」

「サンキューな。…てか作家先生は?」

「…今日は来てないねえ」

いつもならこのぐらいの時間に愚痴りに来るのにねえ。

「……新刊がどうとか言ってたからな…」

「そうだ、隥本幹部」

「幹部じゃねえ。殺すぞ」

「…隥本さん」

ちょっと暇でも潰しません?

俺がこれから暇なのを見透かした様に、久留米は紙の束を俺に差し出して、にっこり笑った。

「…いやあ、最近領収書とかよく分からないのが溜まっちゃって」

「はああ………」



こいつが非識字なの忘れてた。


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