籠の鳥
妖怪は俺を弾き飛ばした。

「わ"っ!!」

軽く飛ばされた俺は一軒の家屋にぶつかり、壁を壊して中に吹っ飛んだ。
そして妖怪は、目を瞑り耳を塞ぎながら震えるまだらに近づく。

「耳を塞いでも、その歌は消えねぇよ小僧」

そう言ってまだらをその大きな手で地面に押し付けた。



俺は家屋から這い出しまだらを見た。

怯えきったまだらと目が合う。



そしてまだらは弱々しく笑った。

周りが煩かったのか俺が家屋に吹っ飛ばされた衝撃で一時的にイカれたのか、声が聞こえないまま、まだらは言った。



「"ありがとう"」



その言葉は、まだらの中で別れを表していることにすぐ気付いた。

目を閉じかけたその時、俺は叫ぶ。

「助けてもらいたいんじゃないのか!!?」

俺の言葉にまだらは再び目を見開いた。


もう分かってるんだ。


「誰かを巻き込むことに我慢しなくていい」


あいつは、妖怪が怖いんじゃない。


「俺を信じろ」


あいつは…


「助けてほしいならそう叫べ!!」

怒鳴り声は十分届いた。

そしてまだらの顔が泣き顔に変わる。

まだらは精一杯息を吸った。



「助けて!!ざくや―――!!!」



あいつは、自分自身の弱さが怖かっただけなんだ。
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