籠の鳥
「君、名前は?」


名前…そんなもの‥


「それじゃあ君はさやだ。さや、これからは僕が君といるからな」

息子はそう言ってさやを抱き締めた。


どうせさやを見捨てるのだろう。


そう思っていたのに、息子は色々な場所にさやを連れて行ってくれた。



しっかり手を握って。


もしかしたら人間は、唯一さやを認めてくれるのかもしれない。


そう希望を持って息子の手を握り返した。



しかし、さやの妖力は他の妖怪よりも極端に少ない。

1日も人間の姿になっていれば器が崩壊してしまう。



だからさやは夜な夜な彼の隣から抜け出して木々の中で妖怪に戻った。


この幸せは失いたくない…。


その思いで毎晩身を隠した。



が、そのさやの思いは絶望に変わる。
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