雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~
平日だから、まだ店内は空いていた。

小上がりの席へ案内され、私は奥の席に座る。

響はスーツの上着を脱ぎ、シャツの袖をまくってメニューを見た。

彼の通勤着はほとんど見たことがなく、つい見惚れてしまう。

最後に会ったときとは髪型が変わっていて、前髪はセンター分け、襟足は肩に届きそうなほど長くなっていた。


飲み物と料理が運ばれてきた頃、響はこちらへ視線を向けながら言った。


「紗矢花は、彼氏とか好きなヤツはできたか?」

「彼氏はできてないし。好きな人も特に……いないよ」


電話でも何度かそんなことを聞かれた気がする。

そのたびに、まだ彼氏はいないと繰り返していた。

遼は好きな人の内に入るのだろうか。

シーザーサラダを食べる手を止めた私は、一点を見つめて考える。


「そういえば、ずっと前に告白ならされたけど」


私が思い出したように付け加えると、しばらく沈黙が訪れた。


「どうかした?」

「……どうかした、じゃねぇよ。誰に告られたって?」

「響も知ってる人だよ」

「……ああ、あいつか」
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