雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~
自宅まで送っていたのだから、そう思うのも仕方がない。
「えっと……」
違うと即答するのかと思いきや、下を向きなぜか言い淀む紗矢花。
いつだったか、陽介が忠告してきたことがある。
――弟の朝陽は高校時代、紗矢花のことを好きだったと。
朝陽と再び目が合ったので、挑戦的に唇だけで笑みを作ると、彼は僅かに目を見開き、穏やかに微笑んできた。
「まだ、彼氏彼女ってほどではないのかな? じゃあ紗矢花、来週からよろしく」
「……うん、よろしくね」
はにかんだような紗矢花の笑顔に、不安が募る。
近所に幼なじみの男が住み始めるなんて、心配でたまらない。
地下鉄の駅方面へ歩いて行った朝陽の背中を、紗矢花はしばらく見つめていた。