雪色の囁き ~淡雪よりも冷たいキス~
第2章

①誕生日の夜

地下のデッサン室は、日があまり射さないこともあり、ひんやりとした空気だ。


黒のカーディガンを羽織った私は鉛筆を持つ手を止め、ふと思い出す。

朝陽くんに遼との関係を聞かれたとき、どうして即答できなかったのだろう。

自分でもよくわからない。


隣に座る悠里は、私の視線にも気づかない様子で、黙々と手を動かしている。



「また、あの絵を描いてるの?」

「そうだよ。あと少しで完成するんだ」


授業とは関係のない綺麗な人を、講師に見つからないよう、こっそりと描く悠里。

優しく涼しげな目元で、女の人にしては短めの髪。

首には、よく見ると喉仏があった──。


「この人……男の人なの?」

「そうだよ」

「綺麗だから女の人かと思ってた」


私のよく知る人に似ているのは、偶然だろうか。

悠里は何かを思い出すように一瞬目を伏せ、寂しげに微笑んだ。


「この人の演奏会に行った夢をよく見るんだ」

「夢……?」

「何の四重奏だったっけ。ギター、バイオリン、チェロ……」


――ピアノ四重奏じゃない?

そう喉から出かかったけれど、私はなぜか悠里に思い出して欲しくなくて口を閉ざしていた。
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