愛ガ降る



「あっ…!
…えっ…と、あの…、あた…私、う…上村あずま…です。」



緊張を隠そうとすればするほど焦り、動揺で自分の名前さえまともに言えなかった。



しかし彼は、そんなあたしの姿を気にすることはなかった。



「上村さん…か、これからよろしくね。
じゃあ。」



そう言った彼は、なんのためらいもなく、すぐにくるりと背を向け教室を出た。



教室に残ったあたしだけが、たった今までそこにいた彼の面影に名残惜しさを感じていた。



終始冷静な彼に対し、あたしだけが緊張していた事がなんだか無性に切なかった。




< 13 / 219 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop