さよなら異邦人
幼い頃の夢を見ていた。

母が優しく僕の頭を撫で、少し伸びた髪の毛をしなやかな指先で梳く。

軽く頬に触れた母の手は、じんわりと温かく、それだけでうっとりとした。

でも変だな?

母さんにそんな事して貰った事…無かったと思うんだけど。

寝ている僕の横で微笑んでいる母さんの顔が、やたらと若かった。

ん?

母さんじゃない?

あっ!?

はっとしてベッドから飛び起きた僕は、きょろきょろと辺りを見回した。

ソファで髪の毛を拭きながら、里佳子が笑っている。

「加瀬の寝顔って、結構可愛いね」

「俺、かなり寝てた?」

「アタシがお風呂から出て、もう30分位経つ」

まだ頭がぼうっとしている。夢を見ていたのかぁ……。

夢……にしては肌に感じた温もりはリアルだった。

頭はまだすっきりしないけれど、触れられた感触は、はっきりと残っている。

「お前、ずっとそこに居たのか?」

「うん。少なくとも、加瀬の半径3メートル以内には入ってない」

「そっか……」

「加瀬もお風呂に入って温まれば」

「そうする」

僕はよろよろと覚束無い足取りで浴室へ向った。


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