先生は何も知らない
■先生、どうして生き物は死ぬの
 飼っていたペットが死んだと、斎藤は嘆いた。

「それは……、残念ですね」

 川嶋にとっては精一杯の励ましの言葉。だが端から聞けば、どうでも良さそうな印象も受ける。川嶋は他人に誤解され易い。

「名前はね、モノトンっていうの」

「モノトン?」
(この生徒にはネーミングセンスが無いらしい)
 そんな川嶋の心を見透かしたように、斎藤は言う。

「白に黒いブチがあったから、白と黒はモノトーンでしょ? だからモノトン」

 斎藤はいつになく弱った声でペットの名前について語った。
 川嶋は困った。
 数学を教えている途中でいきなり落ち込み始めた斎藤に、どう対処していいか分からないのだ。とりあえず思い浮かんだ激励の言葉を片っ端から口にしていると(と言ってもあまり浮かんでは来なかったのだが)、それらを黙って聞いていた斎藤が不意に口を開いた。

「モノはね、すき焼きにすると美味しいから……」

「は?」

 川嶋は思わず聞き返した。
 すき焼きにすると美味しい? いやそんなまさかまさか。

「ふふふふ」

 斎藤は堪らなくなった。生徒の間で怖がられている無口な川嶋が、こんなに可愛い反応が出来るだなんて。
 怪しく笑む斎藤に川嶋は察した。そして、

「斎藤さん。そのペットって……」

「牛だよ、川嶋先生。昨日のご飯、すき焼きだったんだ」

 良いでしょう? 小首を傾げて見せた斎藤に、川嶋は溜め息を吐いた。
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