【完】ポケット-幼なじみ-
ミーンミーンミーン
とまたセミが鳴き出す。
―いつか、聞いたことがある。
セミが鳴くのは雄が雌に
アピールするためだって――
千夏は私に助けて、とアピールしていたのかもしれない。
そのまま保健室の椅子に
座っていると先生が帰って来た。
「あら、蒼井さんじゃない。
どうしたの?そんな所で」
「あ、いや…友達の様子見てたんです」
「あぁ、津田さんね。
早退したみたいだけど……
そういえば津田さんトコって父子家庭なのね。」
「え?」
思わず言葉を失った――――
知らなかった――――
千夏とは四年も一緒にいるのに
「いやぁ、津田さん…あんな状態だから親に迎えに来てもらった方が良いんじゃないか、って聞いたら
『私の家、父子家庭なので父は仕事で迎えに来れる人が誰もいませんので。』
言うから…私が送ってく、っていっても…聞かないから……あら?蒼井さんしらなかった?」
「…………はい。」
「そう、あ、もうチャイムなるわよ。早く教室戻りなさい。」
優しい笑顔でそう言われて保健室を背中にした。