薔薇色の人生
人生で1番大切な日
次の日曜日の朝がきた。ついに池谷さんとの初デートの日がやってきたのだ(15人のおまけ付きだが)。僕は夜中の2時から厩舎の掃除と牛、羊、馬、鶏の餌や水の交換を済ませた。嬉しさのあまり、鼻歌まじりに踊る様な足取りで世話をする僕を、馬や牛は不思議そうに見ている。『今日はね、天使さんと初めてデートする日なんだよ。君達にも早く好きな相手が見つかるといいね』と馬や牛に話しかける。世話が終わると外風呂に入り、使った事のないドライヤーで髪をセットしてみた。所が思う様にうまくいかない。その度に頭を濡らしては再挑戦する。暫くすると優子さんが来て『なんか焦げ臭い思ったら強司か。うわ!お前何やってんだよ!思いきり焦げてんじゃねぇか!』見ると頭のてっぺんがチリチリになっている。人生で一番大切な日にこんな事になるなんて…思わず泣きそうになってしまう。優子さんはしばらく僕の頭をいじっていたが『ダメだこりゃ。少し待ってろ』と自室からニットの帽子を持ってきて僕の頭に被せた。『いいか、今日はこれを被ってろ。絶対に脱ぐなよ』と言いながら泣きそうな僕の鼻をつまんだ。僕は『今日はスーツなんですが、この帽子は変じゃありませんか?』と言うと『文句言ってんじゃねぇ。元は強司がそんなにしちまったからだろうが』と言い、後ろから紙袋を渡してきた。『なんですか?これは』と聞くと『この前迎えに来てくれたお礼だよ。強司が作ったやつを掲げたらどこかの難民と勘違いされちまうよ』と言って出かけてしまった。中身を見ると、立派な刺繍のイラストが入った旗が入っていた。僕は優子さんの気持ちに感激し、鼻の奥が熱くなった。用意を済ませ約束の14時に街のある駅の改札口に着いた。スーツにニット帽、それに優子さんが作ってくれた旗を掲げ、池谷さんの姿を探した。15人のおまけ?がいるからすぐに見つかるだろう。次の電車がホームに入ってきて、降車する乗客の中にその姿を探してみたが見つからない。約束の時間を10分過ぎ、20分過ぎ、ついに1時間が過ぎた。僕は自分を励ましながら3時間待ってみたが池谷さんは来なかった。失望と悔しさと情けなさで感情のグラスから水が溢れた時に、ただ黙ってその場を立ち去った。一人で街の知らないBarに入り知らない酒を注文し知らない人に殴られた。僕の知らないものに囲まれて、人生で一番大切な日が終わった。
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