聖夜の恋人
朝の刺すような冷たい風が頬を麻痺させていく。
やっぱり朝は苦手だ。
今年も後一ヶ月で終わりを迎えようとしている。
この時期になると街は無駄に騒がしくなり、男女の心も騒ぎ出す。
なぜならクリスマスという大イベントがあるからだ。
気がつくとクリスマスは何かの締切日になっている。誰が決めたわけでもない恋する男女の勝手な思い込み。
そして私もその中の一人だ。毎年様々な目標を立て、締切日までにそれを成就させられるようにあの手この手を使って必死な日々を送る。
三年前から不幸続きだったクリスマスに終止符を打つために何が何でも彼をゲットしてやる。
「おはよう矢口さん」
「おはようございます!」
「今年も残りわずかだけどがんばろうな」
「はい!よろしくおねがいします」
中川さんの温かい手のぬくもりを肩に感じ、私は急いで頭を下げた。
「純子おはよう、朝からラッキーじゃん」
ニヤニヤしながら麻紀が腕を引っ張った。
「やばいね〜今日の香水甘かった」
首の辺りからふわっと香る甘い香水の香りを思い出してヨダレがたれそうになり口を押さえた。
中川晃二(30歳)。今年の春、うちの部署に騒然と現れた王子様。
背が高くて細身で短めの清潔な黒髪でたれ目。で、笑うと顔がくしゃっとなるアイドル顔負けの可愛いキュートな30歳。
もちろん一目惚れで出逢ったその日からぞっこん片思い中なのだ。
彼女がいないことは月一の遠まわしの「最近デートどこいきました?」という質問で確認済みだし、今年のクリスマスに約一年間の長い片思いに終わりを、と思っている。
そう、今年のクリスマスの目標は彼と素敵な聖夜を過ごす他ない。
< 1 / 41 >

この作品をシェア

pagetop