好きだと、言って。①~忘れえぬ人~

私は、浩二がどうしてハルカの婚約者なのか、その説明を聞きたかっただけだ。


なのに。


なのに!


浩二は、私が一番触れられたくない心の奥に秘めているものを、よりによってそれを一番知られたくない人の前で暴露してくれた。


いくら従弟でも。


アンタに、そんなことをする権利があるのっ!?


「浩……二っ……」


一気に上昇した感情メーターのおかげで、返って言いたいことが出てこない。


それに。


今、直也はいったいどんな表情をしているのか。


怖くて。


立ち上がったまま、私は、直也の方が見られない――。


「……たぶん、その人は、さっき君たちが連絡を取る取らないでもめていた、『伊藤君』のことじゃないかと思うんだが……、

違うかな?」


「……えっ?」


私と浩二は二人同時に、驚きの声をあげた。


直也は、確かに勘が鋭い人だ。


でも、いくらなんでも、浩二の話を聞いただけで、私の好きな人が伊藤君だなんて推測出来るはずがない。


驚きのあまり、直也の方に視線を走らせた私は、メガネ越しの瞳と視線がかち合って、ビクリと身を強ばらせた。



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