好きだと、言って。①~忘れえぬ人~

直也の瞳に、怒りの表情はない。


いつもと同じに、澄んだ穏やかな瞳。


ただ少し、そこには苦笑めいたものがミックスされている。


「……亜弓から、聞いたんですか?」


浩二も、さすがに驚きの色が隠せない。


「ええ、まあ……。聞いたと言えば聞いたことになるのかな?」


「え、うそっ!? 私、そんなこと言ってないよっ!」


今度は、ハッキリと苦笑を浮かべて言う直也に、思わず私は言い返してしまった。


「寝言をね、何度か聞いたんだ」


「は……?」


ポソリと、苦笑混じりに落とされた直也の言葉に、またもや私と浩二は同時に間抜けな声をあげた。


……寝言?


寝言を、言った?


えええええーっ!?


『ブッ!』


浩二も、直也の言わんとしていることの意味が理解できたのか、吹き出した後、視線を有らぬ方に彷徨わせて肩を振るわせている。


今は、その浩二の態度を怒る気力も湧かない。


ううん。


怒る資格もない。


――ああ、私って。


私って。


史上最低の、大馬鹿女だ……。

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