好きだと、言って。①~忘れえぬ人~

初めて会ったときから、出来の悪い後輩OLの私を何かと気に掛けてくれた、厳しくて優しい先輩。


大好きだった。


メガネの奥の優しい眼差しも。


頭を撫でくれる、大きくて温かな手のひらも。


その腕の中にいれば、いつだってとても安心できた。


だけど。


私は、


私は、この人を、愛してはいない――。


――心は、


どうして、思うようにはならないんだろう。


こんなに私を思ってくれている人を同じように思えたら、どれほど幸せだろうに。


押し寄せる感情の波が、目頭を熱くさせる。


泣くな。


ここで泣いたら、それこそアンタは卑怯者だ。


「ごめ……んなさい。私、結婚……できませんっ」


こぼれ落ちそうになる涙の粒を、どうにかギリギリ押しとどめて、私は、直也に深々と頭を下げた。

< 171 / 223 >

この作品をシェア

pagetop