亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
途方に暮れるライの前方には、始終砂埃を噴く巨大な蟻地獄があった。大きく窪んだ中央に向かって、次々に砂が流れ落ちていく。
獲物はまだかと待ち続けるそこに足を踏み入れれば、他の蟻地獄同様に勿論抜け出す事など出来ないが…実は何を隠そう、この蟻地獄の口こそが、隠れ家への通路である。
それは一見、本物と見分けが付かないほどで、ライも最初の頃は本物の蟻地獄に飛び込みそうになって死ぬかと思った事がある。
本物との見分け方は、中央から吹きだす砂の量が少ない方が隠れ家なのだが、素人目では到底判断がつかないだろう。
慣れた今でも、それが偽物と分かっていても…一瞬足が竦むのは仕方ない事だ。
構造は至って簡単。砂時計の様な仕組みで、落ちた先には空間が広がっている。
底の空間に着くまでの間は砂に埋もれるため、数秒は息を止めておかねばならない。うっかり口を開けていると砂を食うことになる。
意を決したらしいライは、蟻地獄…もとい隠れ家を前に、一度背負っていた少女を前に抱え直した。
…自然、抱き締める形となるわけだが、こちらの方が安定するだけで妙な下心など全く無い!…と心中で叫ぶと、ライは勢いよく砂の渦に飛び込んだ。
―――飛び込む、つもりだった。
大きく一歩踏み出そうとした直前………背中に軽い突風が吹き付けてきた。
頬を撫でる悪戯な風は髪を掻き分け、少女を包む衣を本の少しだけめくり上げ…。
ライの目と鼻の先に現れたのは、初めて少女を見た時と同じ、光を透さない漆黒の髪。
風に煽られて靡く長い髪はボロ布から溢れ出し、ライの視界にちらついたかと思うと………揺れる髪から覗いてた、黒の睫毛で縁取られた大きな瞳と………目が合った。
いつ目を覚ましたのかとか、まず何と声をかければいいのかとか……そんな疑問が浮かぶ前に、ライは自分の姿を映すその瞳に、思わず見とれていた。
髪の色にも驚いたが……目の前の瞳は別格だった。
黒……黒を極めた、闇の色だった。