白い吐息
「真人…」
森下に襲われそうになったとき、呟いた言葉。
どっちの名前を呼んだんだろう?
白居先生…?
白居くん…?
答はハッキリしているのに、琴は2人を天秤にかける。
そうしないと、自分を嫌いになりそうだったから。
琴は複雑な思いで絡まった糸をほどいていく。
「一目惚れなんて、有り得ないと思ってたのに…」
真人と初めて出会ったとき感じた新鮮な痛み、真人の腕の中で感じた痛み、真人を思い出すだけで今でも胸が痛くなる。
この痛み…
懐かしい痛み…
恋をしたとき感じる痛み。
「白居先生…」
琴は両手を握り額に持っていく。
「さよなら、先生…」
まるで懺悔でもするかのように琴は頭を下げた。
『琴子の家って、どんな家?』
『いえ?』
『Houseじゃないよ、Familyの方』
『…普通…かな』
『何だよ、普通って?』
『お父さんは普通のサラリーマンだし、お母さんもパートしてる普通の主婦だし、弟も普通の中学生だもん』
『そーゆー意味か…』
『どーゆー意味で答えれば良かったの?』
『……』
『先生?』
『オレの家は色々と複雑だったから…』
『そうなの?』
『いーな、普通の家』
『……』
あの時、先生は悲しい目で遠くを見つめていた―
何も分かってあげられなかった―