幸福論
涙で声を震わせるママに私の胸も大きく軋んだ。

だって、切なすぎるよ。

だって、苦し過ぎるよ。

家族をそんな風に思ってしまうなんて…。






「…うん…。

でも、ママ、お腹にお兄ちゃん、居たんでしょ?

お家出て、…やっぱり不安じゃ無かったの?」








だって、不安だらけなはずでしょ?

ママの家族の反対。

前に薄ら聞いたお兄ちゃんが生まれた時のこと。

その時、パパは大学2年。

ママは短大2年だったんでしょ?

二人とも東京へ進学していて、パパはママの妊娠を知った時、大学を辞めて働くことに迷いは無かったって聞いた。

でも、パパは、大学を卒業して今があるし、ママは、短大を辞めてお兄ちゃんを産んだ事実は本当の事。

ママは、色んな葛藤があったと私に教えてくれてけど、こんな深い話知らなかったから。




そう聞いた私にママが目尻にたまった涙を掌で拭いながら笑顔を向けた。






「だって、パパもおばあちゃんも居たから。

パパのお母さんは凄いよ?

愛ちゃんのおばあちゃんは、ホントに凄い人…なんだよ。」







「うん…。」






ジンジャークッキーの仄かな苦さと、ママの涙が私の涙腺を刺激した。








「ママの…お父さんがね、ママの事、「恥ずかしい存在だ、二度と、ウチの敷居を跨ぐな」って言ったの。

その時、ずっと頭を下げてくれてたおばあちゃんが「じゃあ、咲子さん(ママ)は、ウチの子にしてもよろしいですね?行こう、咲ちゃん。」って、ママの手をギュッて握ってくれたの。

暖かい手だったの。

ママ、泣いちゃって、泣いちゃって。

その後、荷物詰める時は涙も出なかったのにね(笑)。」








「おばあちゃん…、最高だね…」






あんな小さな体で、パパを一人で育てたおばあちゃん。

そして、こんな苦労もあったなんて…。

おばあちゃんはなんて強い人なんだろう…。







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