幸福論
口の中に広がった甘いカフェオレ。

私は、ママを見上げた。






「愛ちゃんには、おばあちゃん一人しか居ないでしょ?

ママのお母さんとか、お父さん、あなた知らないでしょ?」







「…うん…」






ずっと、思ってたこと。

でも、何故か聞いちゃダメな気がして聞けなかったこと。





幼い心のまま、何故か触れちゃだめだと思ったママの家族のこと。








「ママの若い時ってね、今みたいに自由に恋愛なんて出来ない時代だったの。

パパと付き合ってること、ママの家族には内緒だったのね。あの頃でも時代錯誤甚だしいんだけど、ママには、お家同士で決めた婚約者が居たの。

パパと出逢う前はその人と結婚するのが当然のことだと思ってたんだけど…。
パパと出逢っちゃって、パパの事誰よりも好きになってしまったのね、ママ。

でも、パパが恋人だってどうしても家族に言えなかったの。反対されるの目に見えてたし。

でも、お兄ちゃんがお腹に宿った時、隠せなくなって…ね。

皆、激怒で…、ママ、お家勘当されちゃったの。

勘当ってわかるかな…?
もう、お家に帰っちゃダメ、ママは、その家の人間じゃ無くなったの。」






「…うん。」







想像もしていなかった事実は、私が読むチープな恋愛小説よりリアルで胸が痛んだ。







「パパはね、赤ちゃん二人で育てようって言ってくれたし、ママの家族にも認めて貰おうって……、ッッいっぱいしてくれたのに、ママの家族は、そんなパパを蔑んだの…。

パパの事も、パパと一緒に来てくれたおばあちゃんにも…。

ママ、自分の家族が大嫌いだと思った。

自分の家族を恥ずかしいと思ったの。

家を出るためにちょっとの荷物をまとめてる時、こんな泣き虫なママだけど、涙なんか、出なかった。

早くこんな心の貧しい家から早く出て行きたいって真剣に思ったから。

パパと一緒に居たいその一心だった。」







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