幸福論
暑い日差しに照り返すアスファルト。
アスファルトには陽炎。
病院前の駐車場は、蒸せかえるような熱気。
「おばあちゃん、助手席乗ってくださいね。」
ママが助手席のドアを開けた。
冷ッとクーラーの冷気が心地良い。
私はおばあちゃんの荷物を両手で抱えて、後部座席に乗り込んだ。
「咲ちゃん、海沿い通って欲しんやけど。」
おばあちゃんの少し掠れた声が前から聞こえた。
助手席のシートに埋まってしまうおばあちゃんは、真後ろに座った私からは、見えない。
「天気ええしね。
ちょっと遠回りしましょうっか。」
こっちの言葉が自然と混じるママがウインカーを右から左に変えた。
「病室から海見えんかったよって、なんや珍しいもんでもないのに、見たてしょうがなかったんよ。」
おばあちゃんの声に胸がキューッと締めつけられた。