流華の楔




「…その通りだ。斎藤には辛い思いをさせちまったがな」


永倉か、斎藤。
伊東に目をかけられた二人のどちらかを間者として送り込む手筈だったが、永倉に話がいく前に斎藤が引き受けたのだという。
事情を知る人間は一人で十分だ、と。

斎藤君らしいなぁ、と呟く沖田に、みな心の中で頷いた。



「…じゃあ、平助は?」


永倉の声は僅かに沈んでいた。
答えは判がっていたからかもしれない。

斎藤と違い、平助は任意で伊東と行動を共にしている。
いくらこちらが彼を助けたいと思っていても、それを拒まれれば、斬る以外の選択肢がなくなってしまう。

仲間を、失ってしまう。



「伊東を殺し、その亡骸を棄てておけば仲間が引き取りにくるだろう。その時、あいつに“戻る機会”を与える」


土方の言葉に、永倉の顔が上がった。


「ここまで、お前はどう思う、和早」

「……え」


急に話を振られ、慌てて考える。


「良い、と思いますが」

「よし。決まりだな」

「(というか、何故私………あぁ、なるほど)」


最後、土方が己に意見を求めた理由。
おそらく土方は、新崎和早の了承が会津の了承に値すると考えたのだろう。


この采配。
さすがは土方、と和早は思った。



< 298 / 439 >

この作品をシェア

pagetop