RUN&GUN
千秋屋に入ると、早速三郎太が奥から走り出てきた。

「おお与一。ささ、上がれよ。彩ちゃんが待ってるぜ」

やけににこにこと与一を促す三郎太に、訝しげな目を向けながら下駄を脱ぎ、与一は三郎太に続いて廊下を進んだ。
三郎太が出てきた時点で、五平は頭を下げてさがっていったが、何故か朔太郎は、今も後ろからついてきている。

心なしか、睨むような視線を背中に受けつつ、奥まった部屋の前についた与一は、三郎太が襖の前に座って中に声をかけ、襖が開くのを待った。

「お嬢さん。与一をお連れしました」

三郎太が声をかけた途端、襖の向こうが一瞬どたんばたんと騒がしくなった。
次いで、慌てたようなお蓉の声が返る。

「彩さん、駄目よ。ちょっと待ってって。菊助、いいわよ。どうぞ、お通しして」

静かに襖を開いた三郎太の横顔が、驚いたような顔になる。
そのまま三郎太は、勢い良く与一のほうを向くなり、激しく手招きする。

何なんだ、と思いつつ、与一は三郎太のほうへ歩み寄り、部屋を覗き込んだ。
与一の視線がお蓉を捕らえ、その横に滑った途端、与一も動きをなくした。

お蓉の横にちょこんと座った藍は、桜色の振り袖に、紅梅色の帯を締め、結い上げた髪には、同じく紅梅色の縮緬の布が結わえてある。
唇と目尻には、うっすらと紅が引かれ、まさしく目を奪うばかりの美しさだ。

さすがの与一も、息を呑んで藍を見つめた。
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