RUN&GUN
早口で説明するお蓉が言い終わるのとほぼ同時に、襖の前で再び三郎太の声がした。

「阿国屋さん、お控えください! いくらなんでも、お嬢様のお部屋に勝手に上がることは、許しませぬ!」

一瞬、辺りがしん、と静まった。
お蓉が息を詰めて、襖を見つめる。

「お蓉さん。風之介です」

よく通る低い声に、藍が、はっと顔を上げるのと同時に、襖が開いた。

「断りなく婦女子の部屋に入ろうとするなど、失礼じゃありませぬか!」

廊下に立った長身の男に向かって、お蓉が怒鳴る。
与一は目の端で、藍が顔を強張らせているのに気づいた。
もっとも藍が顔を上げていたのは、ほんの一瞬で、すぐに顔を伏せ、こそりと与一の後ろに身を隠したのだが。

「おお、これは失礼しました。早くお蓉殿の顔が見たくて、案内も請わずやってきてしまいました。お客様だったのですか」

風之介と名乗った男は、与一を見て目を細めた。
与一の背中に、怖気が走る。

---何だ? こいつ・・・・・・---

そのとき、風之介の死角になっているであろう与一の右手を、藍が後ろからそっと握った。
意味ありげに、手の平を親指の腹で、すっと撫でる。

『あの男、こともあろうに、あたしの手に口を付けたのよっ!』

藍の声が蘇った。

---こいつが、例の陰間・・・・・・? おそらく、一連の追っ手の頭・・・・・・---

与一は突然目の前に現れた風之介を、まじまじと観察した。
いきなり部屋に入ってきた者をじろじろ見るのは、決して不躾ではない。
許可していないのに、部屋に乱入してきたのは、風之介のほうなのだから。
むしろ与一の反応は、普通の人間の反応だ。
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