魔女の報酬
(5)ドラゴン退治
(まったく、何だってドラゴン退治なんて、物騒なお先棒を担ぐことになったのかしら。ああ、思い出しただけで腹が立つっ!)

 強情ぱりなメディアは自分の言葉を今更翻せずに、嫌々王子と同行して、ドラゴン退治に赴くハメに陥ったのだった。

 だが、メディアの災難はこれだけでは済まなかった。と言うのも、どうもこの王子はこの状況を逆手にとって彼女をからかい、楽しんでいる節があったのだ。
 
いくらメディアが魔法に優れた魔女とはいえ、しょせん恋愛経験がほとんどない純情な娘にすぎない。宮廷での洗練された恋愛沙汰に手慣れているに違いない王子相手では、分が悪すぎるのである。

 でも、とメディアは思う。いくら彼が変だとしても、本当に結婚する気はないだろう。

 ドラゴン退治が無事に済めば、報酬を変えてくれるように泣きついてくるに違いない。その時こそ最終的には妥協してやるにしても、今までの分、気のすむまで苛めてやって溜飲を下げればいいのだ。

 静かに、けれど確実にドラゴンに近づいて行く王子の後ろ姿を、メディアは息を殺して目で追う。いつでも助けに飛び出せるように、魔法のほうきの柄を握り締めている手が、我知らず緊張のためにじっとりと汗ばんでいた。

 別に心配しているわけじゃない。このまま、からかわれっぱなしなままで王子に死なれでもしたら、魔女メディアの名が廃るというものよ、そう自分に言い訳する。

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