魔女の報酬
 ドラゴンの圧倒的な存在感の源は、恐怖に他ならなかった。が、確実にドラゴンとの距離を縮めていくロランツに臆した風はない。その豪胆さは、メディアでさえしぶしぶながらも認めずにはいられないものであった。

 やがて、難なく王子はドラゴンの鼻先にたどり着いた。長い槍を構えるその姿は、巨大なドラゴンに比べるとおもちゃの兵隊よりも頼りなげである。

(どうするつもりかしら?)

 メディアは首を傾げた。王子の持っている槍程度では、到底金色の鱗に守られたドラゴンの身体に傷一つつけることさえ叶わないだろう。

 見守るメディアの不審をよそに、ロランツ王子は至極のんびりとした調子でドラゴンに話しかけた。

「そろそろお起きになった方がいいんじゃないかな、ドラゴン。陽もこんなに高い」

 メディアは大きく目を見瞠くと、心の中で毒づいた。

(あんのバカが! せっかくのチャンスを不意にして! ドラゴンが起きちゃうじゃないよ!)

 けれど、王子はメディアが考えたほどバカではなかった。ドラゴンが大儀そうに目蓋を上げかけた瞬間、予め狙いをつけていたそこに槍を繰り出したのだった。

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