タイトル未定


 夏目は基本的にはいい奴だし付き合い易い奴なのだが、時折今日のようになる。同じ事を何度も言うのだ。
 原因は時々によって違うが、こうなるともう途端に面倒臭い奴になってしまう。普段の奴に言わせると思考がループしてしまうらしい。難儀な性格な事で。
 と、下駄箱についた時にふと思い出した。妹から借りた漫画を教室に忘れてきてしまったようだ。
 これが自分のなら無視して帰るところなのだが、妹の私物だ。置いて帰ったらきっと怒られる。下手すると殺される。

「・・・・・・ふいー。やっと追いついたー。井口歩くの早えーって」

 ようやく追いついてきた夏目ががっくりと肩を落としていた。
 ・・・・・・忘れ物をしたのは返って好都合だったかもしれない。
 ――すまん夏目。

「ちょっと教室に忘れ物したから先帰ってていいぞ」

「えーっ! なんだよそれー。まーいいよ、待っててやるよ」

 それは困る。

「いや帰れ」

「なんでっ!? ひどくねっ!?」

 俺は大袈裟に驚く友人の肩を優しく叩き、精一杯真面目な顔を作って言ってやった。

「今日のお前に付き合うのは精神的に苦痛なんだ・・・・・・俺に構わず先に行け!」

「かっこよくないよっ! 前半はただの悪口だしっ!」

「ループする会話を直してから出直して来い!」

「・・・・・・くっ。またループしてるのか・・・・・・俺・・・・・・」

 気付いていなかったのか、恐ろしい奴め。まぁいい。こんなところで時間を潰している場合ではないのだ。俺も早く帰りたい。

「じゃあまたな」

「・・・・・・おう」

 うなだれ肩を落として去る、哀愁漂う友人の背中を見送り、俺は教室へと急いだ。


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