愛音-あいおと・短編
「川辺くん、無事女の子が生まれたよ。」

「ありがとうございます。」

その子は疲れきった早紀の横から、看護士に抱かれながら出てきた。

小さく、真っ赤で、良平は無意識に込み上げる感情を必死に抑えながら、早紀の手を握り、そして綿菓子の形を崩さないようにその子を抱きかかえた。

良平の両腕には、計りしれない責任という重みがのしかかったのを心で感じていた。


あれから3年、子どもの舞も3歳になっていた。
「ねえ、そろそろ自分達の家が欲しい。」
「ああ。」

良平はそんな早紀との約束の為、舞の為、今まで以上に仕事に打ち込んだ。

そして、毎日のようにいろんな医者と毎晩"お付き合い"で朝帰りの日々だった。当然、早紀との会話もほとんどなくなっていた。

「ねえ、折角の休みだからどっか行こうよ。」

「家が一番だよ。舞だって家で遊んでるほうが楽しいだろ。」

毎晩飲めない酒を飲み歩く良平は、日曜になるとゴロゴロ過ごした。

早紀もそんな良平に、次第に苛立ちを感じていた。
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