ふわふわのいた町
出逢い
「ねえ、君。聞こえてる?」
トントンと肩を軽く突かれた。悠々はやっとその声が自分に向けられたものだと気付いた。振り向くと詰襟の学生服の少年が小さく微笑んで立っている。
中学生?市立の中学はみんな詰襟だ。身長や雰囲気では高校生に見えるけど…わかんないな、二組の福井なんて中学二年にして、もうすっかりおっさんの雰囲気、醸し出してるし…でも今時、こんなダサい制服の高校あったかな?
悠々は返事もせず少年の顔を見ながら考えた。
「おーい、見えてますかぁ?」
少年は悠々の目の前で手をひらひらと振って見せた。
失礼な。聞こえてるし、見えてるし…
素直に反応するのが何か悔しい気がして悠々は返事しないことにした。他に考えること、しなくちゃいけないことがある、
と思う…けど。こんな奴、無視だ、無視。
と思ったら胸の奥がチクリとした。
何か『無視』って嫌な言葉。
そう思ったら胸がまた、チクッとした。
少年は何のためらいもなく、ぐいっと自分の顔を悠々の顔に近づけた。あまり急に間合いを詰められたので後ずさりもできず、少しのけぞった。
「大丈夫そうだ。なんか考えてるみたいだね。良かった。」
少年は悠々の目を覗き込んで言う。
「オッケー。そのまま考え続けて。ぼうっとしちゃ駄目だよ。消えちゃうからね、いいね?」
何、言ってんの。消えちゃうって何?わけわかんない。こんな変なナンパにつきあってるヒマないの。あたし忙しいんだから。
何が忙しいのか、わからないまま、悠々はそう思った。本当はこの少年の側からすぐにでも逃げ出したかったが、なぜかこの場所から動いてはいけない気がしたのだ。
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