ふわふわのいた町
そういえばこの少年に声をかけられるまで悠々は何も考えていなかった気がした。ただボーっとこの歩道に立っていただけのような気がする。
そういえばあたし、何してたんだろ?
そう思ったとたん、悠々は急に不安になった。少しくらい変でも良い、少年と話してみる気になった。
「あたし、何してたんだろ?」
そう声に出して言った。少年はうれしそうな笑顔を見せた。
「自分の名前言える?生年月日は?」
少年は次々と質問を発した。住所は?両親はいる?お父さんの名前は?お母さんの名前は言える?他に家族は?
何これ?怪我した人に救急隊員がする質問みたい。テレビの改編期によく放送する『なんとか救命二十四時』みたいなスペシャル番組。お父さんが結構、好きなんだ。その手の番組。つきあって、あたしも時々見てる。
悠々は割りと真面目に少年の質問に答えた。自分の名前や住所、家族の名前まで。知らない人間にこんなに答えていいのかなと思うくらい。
そして少年は最後の質問をした。
「で、君。今の自分のおかれた状況ですが、理解できてますか?」
何それ?わからない。わからないから、わけわかんないあんたの質問にも素直に答えてんじゃない…
悠々はこみ上げてきた悔しさと不安で涙ぐみそうになった。涙を流したら本当に声をあげて泣いてしまいそうな気がした。目に力をいれて我慢した。
「そんな怖い顔してにらむなよ。わかんないなら教えてあげるから。」
少年は照れくさそうな、困ったような顔をして視線をはずした。
「あのベンチに座って話そう。ショックで倒
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