ブルーストーンは永遠に
場の雰囲気を悟って、それを振り払うように、「ふんっ」と鼻を鳴らして引き上げて行った。
「なにあいつ。さっさと引退しろよって感じ」
藤田に勢いづけられたのか、誰かが言った。
「同じ先輩でも平下は嫌だけど、西浦さんは好きだな。偉ぶったりしないし、何かと俺達のめんどうみてくれてるし」
藤田が言うとみんな口々に同調した。
「三枝はそうは思わないのかよ?」
「まあ俺は基本的にサッカーができればそれでいいから」と視線を合わさずにいうと、藤田は「優等生だねえ」と嫌味っぽく吐き捨ててそっぽを向いた。
上から照りつける、自然のスポットライトを浴びていた先輩達はひどく疲れたようだった。
八月前なのにうだるような暑さだった。
先輩達は矢も盾もたまらずにたまらず木陰で熱くなった体を冷やしていた。
キャプテンの瀬尾さんが一年を呼び出して休憩している間なら使ってもいいと言った。
ぼくたちは弾けるように喜んで、グラウンドに飛び出した。
自然と出る威勢のいい掛け声。
初めはシュートの練習をしようとしたけど、藤田がそれを制して、せっかくだからチームに分かれて練習試合をやろうと言うと、みんな俄然乗り気になった。
確かに試合形式でやるなんて少なくともあと半年はないだろう。
そう思うと、そっちのほうがいい、とぼくも思った。
即席でチームを二つに分け、早速試合を始めた。
スパイクが騒がしくグラウンドを叩き出すと一斉に砂塵が舞う。
ゴール前の攻防から誰かがクリアした。
ボールはタッチラインを割って外に転がって、グラウンドまでも飛び出した。
ぼくがそれを追いかけていると、校舎の前にあるコンクリート道にゆかりが友達二人と歩いていた。
ボールが意思を持つように彼女の方へ転がって、彼女の真下まで到達した時、ちょうど止まった。
しなやかな手が砂埃を吸ったボールを拾い上げた。
ゆかりの存在を脳が意識して近づくにつれ、ぼくの胸は太鼓を打ったように激しく鼓動した。
「はい」とぼくに差し出されたボールを受け取って、「ありがとう」とお礼を言ったけど、言葉はくぐもってしまった。
「どういたしまして」
彼女は微笑みを浮かべていた。
ほどよく日焼けした肌が美しかった。

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