ブルーストーンは永遠に
ここまで近い距離で面と向かったことすらないのに、言葉を交わしたという事実がたまらなく嬉しかった。
ぼくは恥ずかしさで思わず目を伏せてしまった。
小学校の頃は女の子でも何ともなく話す事ができたのに、中学に入った途端、それが難しくなった。
戻ろうとしたぼくの背中に、ゆかりは「がんばってね」と声をかけた。
ぼくは上半身だけ振り向いて、「うん」とだけ返した。
聞こえるように返したつもりだったのに、これも喉元がまだ固まってうまく声を出せなかったので、彼女の耳に聞こえていたのかはわからなかった。
グラウンドに戻ると藤田がゆかりを見やりながら声をかけてきた。「高野となに話してたんだよ」
高野という響きを聞いただけも、胸の鼓動はリズムを崩しているようだった。
「別に、礼を言っただけだよ」
声の調子を落として悟られないようにした。
「高野ってかわいいよな。いや、かわいいっていうより美人って言うタイプなんだよな。テニスしてる高野なんて最高だよ。スカート少しだけ短く履いててさ」
藤田がねちっこい、さもしい視線をなおもゆかりに向かって飛ばしていたので、ぼくは何かで遮ってやりたかった。
「さあ、高野が見ているうちに張り切ってシュートを決めるとするか」
彼女たちは歩きながら、こちらの試合を見ていた。
藤田のように男心をくすぐらせるのは納得できた。
ボルテージは一気に上がっていった。
小学生の頃からシュートを打つ花形よりスルーパスを好み、ポジション的にも毎回ミッドフィルダーだったのに、はやるように前に出てパスを貰っては身勝手にシュートを打っていく。
藤田も同じようにやり始め、次第にパスワークがさつになって、小学生のような試合展開になっていた。
「航介と藤田打ちすぎ。もっとみんなに回せよ」
仲間内からクレームが飛んだ。
ぼくは、「ああ、わりい」と言って、さも今気づいたかのように振舞った。
< 11 / 14 >

この作品をシェア

pagetop