ワンラブ~犬系男子とツンデレ女子~
あたしが一方的にワンのことを知らないんじゃなくて、ワンだってあたしのことを知らないのだ。
兄弟はいなくて、家族はあのお父さんだけで。
そのくらいは、知ってると思うけど。
じゃあ、お母さんは?
今まで誰にも話したことなんてない。
お母さんがこの世からいなくなったのは、あたしがまだ小学校に上がる前だった。
記憶に残る母親は、曖昧でいつもぼやけてて。
温かかったその笑顔さえ、あたしはあまり思い出せない。
顔だって、仏壇の写真とお父さんの部屋に飾ってある家族3人の写真を見てたから、今でも思い出せるけど。
写真がなければ、曖昧な記憶となっていたと思う。
唯一はっきりと覚えているのは、「幸せだ」といつも言っていたこと。
お父さんがいて、あたしがいて、それだけで自分は幸せなんだと。
それが口癖だった。
いつかワンにも、お母さんのことを話す日が来るのかもしれない。
早かれ遅かれ、きっとくる。
大事な人には、なにもかも知ってほしいと。
こんなこと思うなんて、今までのあたしからは想像もできないな。