アリスズc

「これはこれは…殿下」

 神殿に入り、ハレがホックスと控えの間に案内されている時──そんな声がかけられた。

 ヤイクだった。

 昔の印象より、もっと髪が短めになっているが、それ以外はさして変わった様子はない。

 この旅路で、一番変わらなかった者と言えば、リリューか彼かのどちらかだろう。

「神殿への到着、心よりお喜び申し上げます」

 丁寧な言葉を並べながらも媚びることはなく、目はハレと彼の文官を見つめている。

 見るというより、見抜こうとする目。

「ありがとう。そちらも全員無事で何よりだね」

「ひとつ…お伺いしたいことがあるのですが」

 社交辞令の挨拶など、形だけで終わりだと言わんばかりに、ヤイクが話を切り出す。

 ハレにしてみれば、意外な展開だった。

 彼については、宮殿にいる時から善悪関わらず伝え聞いてはいたが、直接懇意に話をする間柄ではなかったのだ。

「どうして…私を選ばなかったのですか?」

 ホックスの目の前でも、まったく臆する様子もない。

 おそらくヤイクの目からすれば、彼の価値はさほど高値ではないのだろう。

 そして。

 どうして自分がテルの従者になったのか、そのきっかけを弟から聞いたのか。

「私にしてみれば、あなたの方が楽だったのですがね」

 ニヤリと、笑う口元。

 太陽の息子を捕まえて、『楽』なる言葉を平気で吐ける心臓。

 ヤイクにとっては、テルの方が扱いにくかった、ということか。

 それらを駆使して、ハレの真意を探ろうとしている。

 何故、自分をテルに譲ったのか、と。

 彼に真意を悟られれば──テルに伝わるだろう。

 だが。

 頃合いかもしれないな。

 お互い、無事に神殿にたどり着いた。

 大きな障害も、取り除いた。

 すぅっと、ハレは息を吸う。

「卿は…賢者になるべきだと思ったからですよ」

 言葉の裏側を読み取るヤイクの目に。

 己の瞳の中を覗かせた。
< 218 / 580 >

この作品をシェア

pagetop