アリスズc

「どうして…私を選んだのですか?」

 控えの間で──ハレは、そう聞かれた。

 ホックスに、だ。

 先ほど、ヤイクに問われたことが、彼の心にも残っているのだろう。

 ホックスは、自分の知的好奇心を満たすことを最優先として、ハレの旅に加わった。

 だから、最初は何の疑問も抱かなかったのだろう。

 人の心など、どうでもよかったのだから。

 そんな彼が。

 ハレに問いかける。

 何故、自分を選んだのかと。

 ホックスは、その疑念をこれまで一度も思い浮かべなかった事実に、ショックを受けているように思えた。

 そんな過去の自分が、信じられないかのように。

 ホックスは──変わったのだ。

 問わずにいられないほどに。

「夜に…嫌悪を覚えていなかったからだよ」

 だから。

 ハレは、そんな彼に本当の言葉で答えた。

「夜や月が忌み嫌われているこの国で…君だけが、好き嫌いで夜を語らなかった」

 あの時の彼にとって、それはとても重要なことだったのだ。

「それだけ…ですか?」

 ホックスの言葉には、『たったそれだけですか』という、失望に似た思いが混じっていた。

 自分の能力や才能で、選ばれたのではなかった事実が、つらかったようだ。

 何を、失望するというのか。

 実際、この旅にホックスは必要だった。

 コーが加わってからは、なお一層。

「君は、いまや…月の魔法について知識のある、たった一人の人間だろう?」

 他の従者では、それはなしえなかったに違いない。

 コーを助けることさえ、強烈に反対されただろう。

 月の魔法の第一人者。

 その知識が、太陽の国にとって必ず役に立つ時が来る。

「私は、これまで一度たりとも、人選を間違えたなんて思ったことはないよ」

 ハレの言葉に、しかつめらしく眉間を寄せる。

 不快に思っているのではない。

 多分彼は──泣きそうになったのだ。
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