アリスズc

「お帰りなさい、エンチェルク」

 ウメは、嬉しそうに目を細めた。

「ただいま帰りました」

 エンチェルクも、自然に笑みを浮かべていた。

 距離感の計りづらい人ではあるが、彼女は冷たい人ではない。

 それどころか、これほど自分に対して愛情と親密さを感じる気を、発してくれているではないか。

 まるで、深い友達のような、あるいは家族に近いような。

「痩せましたね」

 気になることと言えば、そのくらいか。

 理由は、モモから聞いていたいたものの、そこは自己管理で何とでも出来るはずだ。

「ええ、桃にも叱られたわ…いまは、必ずコーが空腹を訴えるから大丈夫よ」

 桃の脇から、ひょこっと顔を出す白い髪の女性。

 前に見た時と変わったことと言えば、髪が全て真っ白になったくらいか。

 だが、本当に変わったのは見た目ではなく。

「梅は、『おなかがすきましたね』、とは言わないので困ります」

 彼女が、天真爛漫にそう言った瞬間。

 エンチェルクは、ぎょっとしたし、モモもそうだった。

 綺麗な言葉を使っているという、事実で驚いたわけではない。

 彼女がウメの真似をして言った、『おなかがすきましたね』という言葉の部分が──ウメそのものの声で聞こえたからだ。

 そんな二人に、本物の声の持ち主が苦笑を浮かべる。

「トーに習っている内に、人の声も動物の鳴き声も使えるようになってしまったのよ」

 そっくりそのままの音を出すという。

 そ、それは。

 一瞬だけエンチェルクは、彼女の声がとても利用価値が高いという考え方をしてしまって、慌てて止めなければならなかった。

「ウメ…その癖は、あえて抑えるようにさせた方がいいと思います」

 ヤイクやテルに知られる前に。

 国のために働くとは考えたが、何もかも利用して、ということは考えていない。

 コーは、微妙な立場の人間だからこそ、隠しておいた方がいいこともあるのだ。

 彼女のためにも。

 そうしたら。

 ウメが、嬉しそうに微笑んだ。

「ええ、そうした方がいいわね」

 何が──嬉しかったのだろうか。
< 314 / 580 >

この作品をシェア

pagetop