アリスズc
∞
「ハレイルーシュリクスは、お元気でしたか?」

 コーは。

 表情と言葉が食い違っている。

 母は、彼女の情緒を抑えようという気はなかったらしい。

 だから、どれほど言葉は綺麗になってきても、弾けるような笑顔と好奇心の瞳に陰りはなかった。

「ええ…でも、コーに会えなくて残念がっていらっしゃったわよ」

 言葉に、彼女は嬉しそうだった。

 にこにこの度合いが、更に増しているのだ。

 会いたがっている。

 そう思われていることを、純粋に喜んでいるのだろう。

「桃は、次はいつハレイルーシュリクスのところへ行きますか? 私も一緒に行きたいです」

 感情がふわっと浮いたようで、言葉の気配も浮く。

「コー…私は旅に出なきゃ行けなくなったの。だから、しばらく殿下のところへは行けないのよ」

 言葉が進むごとに、浮きかけた表情から空気が抜けてゆく。

 しょんぼり。

「でも、エンチェルクが、時々行くはずだから、その時に一緒に連れて行ってもらうといいね」

 その表情が、またふわーっと浮いて行く。

「分かりました。エンチェルクイーヌルトにお願いしてみます」

 言葉と表情の格差のすさまじさは、桃を笑わせてしまいそうなほど。

 母も、もうちょっと柔らかい言葉で、止めてあげればいいものを。

「桃の旅は、一人で大丈夫ですか?」

 その言葉が、ふっと自分のために投げられて、桃は慌てた。

 まさか、心配をされるとは、思ってもみなかったのだ。

「大丈夫よ、伯母さまのお手伝いに行くだけだから」

 桃の説明に、コーの表情が微妙に曇る。

「本当に…それだけですか?」

 言葉の中に、コーはどれほどのものを汲みとっているのか。

「お仕事も、ひとつ頼まれたわ。昔の話を聞いてくるお仕事よ」

 嘘をつかなくていいように、桃は出来るだけ分かりやすい言葉を使った。

 リリューの人生を変えた事件のことだけに、彼女にとっても多少思うところはある。

「一人で大丈夫…これは、私のお仕事だから」

 代わりに、桃ははっきりと彼女にそう言いきったのだ。

「分かりました」

 コーは。

 にこにこと笑った。
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