【短編】 曇り空
力に任せてドアを開けた

高い天井に鈍い音が響く

白衣に身を包んだ美紅が
あの日
俺がいた場所に座って
机に伏せていた


ゆっくり


乱れた息を整えながら
俺は美紅に歩み寄る



「どうしたの?

授業中よ?」


優しい声



「先生こそ・・・。」


俺の声に気づいて美紅は
顔を上げて振り向いた

優しい微笑み

まるで

最後の挨拶みたいな
親しげでどこか他人行儀な笑顔


「私はいいんだよ。

さ、生徒は教室に戻って授業を受けな。」


黒くて大きな瞳が俺を見つめる

なんでだろう
こんな時のこんな姿でさえ
こんなにも俺をかきたてる・・・


「イヤだ・・・。」

イヤだ


だって
俺が授業を受けてる間に

美紅は消えてしまう

行ってしまうんだろう?

俺が届かない場所へ
知らない場所へ
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