短編集
 いつもよりもくるくると、そして幅広く表情を変える璋子さんは見ていて飽きない。
「みーんな、相変わらずだった」
 懐かしそうな目をして、グラスの中身を煽る。僕は空いたグラスを満たす。

「リナはお腹が大きいから、お酒飲まなかったんだけど、サオリとリナが揃うと誰も止められなくて」
 グラスの中身を煽る。僕はそれを満たす。

「ヒロが、あのこは飲めなくって、でも幸せそうだったな。もう二児の母よ」
 グラスの中身を煽る、僕は満たす。



「紀井君、」
 璋子さんのとろんとした目が魅惑的に僕を誘う。
「帰らないの?」

 開けてあったと言っても、八割は入っていた酒が、もう半分ほどになっている。
「帰れませんよ、僕、車で来たんですから。飲酒運転で捕まっちゃいます」
 ああそう。璋子さんは立ち上がり、寝室へ行く。

「今、毛布出してあげる」
 僕に、ソファで寝ろと言う。
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