短編集
 深さにバリエーションのあるキスが、立ったり座ったり、場所や角度を変えて続く。僕のワイシャツのボタンを外しながらも、璋子さんの手は、照明の電源を切ることを忘れなかった。真っ暗な部屋に、僕たちの荒い息遣いだけが響いた。

*

 ドライヤーの音が止み、洗面所のドアが開く。璋子さんは僕を見ると、困ったように笑った。
「起こしちゃった?」
「いえ、勝手に目が覚めて」
「そう」
 二人して壁の時計を見た。そして笑いあう。全く、変な時間に起きてしまった。

「どうしましょうか、これから」
「そうね」
 起きるには早いし、寝るのも勿体無い。連休の初日だというのに。

 璋子さんは、腕を組んで台所を一巡した。
「ねえ、きー君」
「はい」
 戻ってきた時にはその目は輝いていて、いたずらっぽく僕を呼ぶ。

「きー君のお家に行こうよ」
 僕の家。
「落合のマンション」
「違う違う」
 璋子さんは首を振った。
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