夜空に咲く僕たちの願い
耳を澄ますと向こう側の音は一切聞こえなかった。
不気味なこの空気感は何かに似ていた。
久しく訪れていないせいか、俺は忘れかけていた。
『…何で?』
何でって言われても…
「渓斗を見たから」なんて言えないし、ましてや「私立図書館なんて行ってないんだろ」と逆ギレしたら電話を切られそうだ。
「ちょっと相談したいことがあって。だからさ…」
…そんな時ある声が電話越しに聞こえた。
女の人の声で―…
『ここは携帯電話禁止よ?電話するなら外でお願いね』
体が震えた。
一瞬時間が止まった。
「…え?」
『悪い、俊介。今そんな時間ないから。』
遠くの方で電話の切れる音がした。
それが耳を支配していく。
「どういう…ことだよ…。渓斗は今どこにいるんだ…よ」
力の抜けた手は携帯電話をベッドへ落とした。
そしてあることを思い出す。
不気味な空気感。
そして携帯電話の使用禁止施設。
ピンと来た。
渓斗のいる場所…それは…
「……病院?」
昔捕まえようとした紋白蝶は、俺には捕まえることは出来なかったけれど数日ある場所で息絶えていた。
それは蜘蛛の巣。
何かの罠に引っかかったのだろうか。
もし俺が優雅に飛ぶ蝶だったのなら、俺も蜘蛛の巣に捕まっているだろう。
泣きながら「助けて」と叫んで死んでいくだろう。
隠し事は人を傷つける。
俺の心は粉々に割れていった。