白球追いかけて
「どれがいい?」
ヨシナが開けてくれたボックスには、五種類のドーナツが入っていた。
「じゃあオレ、チョコ。ヨシナもケメも食べたら?」
「じゃあ、あーしはぁ、ホイップの……」
 ヨシナが手を差し出したのとほぼ同時に、ケメも同じドーナツをつかもうとしていた。
「あっ、ケメええよ、食べ」
「ええって、ヨシナ食べ」
「いや、これ選んだんケメやし……」
「はいはい、じゃあじゃんけんしたらえーやん。缶蹴りにするか?」
「ここ病院やん」
 ヨシナがツッコむ。
「たしかに」
 三人の声が交互に飛び交う。その会話の隣のベッドのおっちゃんが笑っている。オレよりも十日ほど早く入院してきた人で、真田源次郎さんという。とび職で、高いところから落ちてしまって、足を骨折したそうだ。
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